e 指先の恋人
×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

指先の恋人



バスの車窓から流れゆく風景を見ながら、

ぼくは昨日と同じはずの日常に違和感を感じていた。

時折、振動に合わせるように、昨晩のことを反芻する。

早めに夕食をとり、風呂に入り、テレビを見てベッドに入った。

寝る前に、少し読みかけの本を読んだ。

その記憶は確かにここにあるのに、感情だけが今は空の彼方を飛んでいる

彼のそばに置いてきてしまったようだった。


ぼくはぼんやりと思いにふける。

そして、数時間前は、彼に触れていたはずの指先を親指の腹で擦る。

(御剣…)

窓の外に、いるはずもない男の姿を捜す。


今、君に会いたい。


ぼくの気持ちは、たぶんメールのように瞬時に国境を飛び越えるものでもなく、

手紙のように手に触れられるものではないだろう。

途中で見失い、混乱し、君を傷つけてしまうこともあるだろう。


…それでも。

放たれた気持ちは、キミの周りをぐるぐると尾を引くように、回り続けていく。

そしていつか、君の心に着信のように光を落とせばいい。

優しいあかりになって君を照らせばいい。

1日でも…1秒でも長く。

ぼくは窓の外を見た。

横断歩道に流れ出す人の群れ。足早に帰宅を急ぐ会社員。学生たちの楽しげな笑い声。

いつもと同じ日常。彼がいないだけの日常。

明日も明後日も、それは続いていく。

祈るようにそっと…ぼくは、指先の恋人に口づけを捧げた。



back

Designed by CSS.Design Sample